この講義で学べること
部下が同じ仕事を何度もできない時、役職者は判断に迷うことがあります。
本当に能力が足りないのか。
それとも、できるのに必要な行動をしていないのか。
この2つは似て見えますが、対応は大きく違います。
「できない」なら教育・練習・支援が必要です。「できるのにやらない」なら、行動責任や基準の守り方を明確にする指導が必要です。
ここを間違えると、できない人を厳しく責めたり、逆にやらない人へ何度も同じ教育を繰り返したりします。
この講義では、「できない」と「やらない」の違い、見分けるために確認したい事実、役職者が判断を間違えやすい場面、原因別の対応方法まで整理します。
「できない」と「やらない」の違い
できない
知識・理解・経験・判断・環境などに不足がある
やらない
必要な能力・基準を理解しているのに実行していない

「できない」と「やらない」を混同すると育成を間違える
例えば、新人が報告をできなかったとします。
その原因が、
「どの段階で報告するのか教わっていなかった」
のであれば、まだ「できない」状態です。
一方で、報告基準を理解し、過去には正しく報告できていたにもかかわらず、
「面倒だったから後回しにした」
のであれば、「やらない」に近い状態です。
この2人へ同じ対応をしてはいけません。
結果が同じでも、原因が違えば育成方法も指導方法も変わります。
「できない」とはどんな状態か
「できない」とは、本人に必要な行動を実行するための何かが不足している状態です。
主な原因には、
- そもそも教わっていない
- 説明を理解できていない
- 実践経験が足りない
- 判断基準を知らない
- 複数業務の優先順位を決められない
- 緊張や忙しさで安定しない
- 必要な情報や環境が不足している
などがあります。
この状態では、「やれ」と言われても能力・条件が不足しているため、うまくできない可能性があります。
できない人には、何が不足しているかを見つけ、その不足を埋める必要があります。
「やらない」とはどんな状態か
「やらない」とは、本人が必要な行動を理解し、実行する能力もあるのに、実際には行っていない状態です。
例えば、
- 手順を理解しているが省略する
- 報告基準を知っているが報告しない
- 確認方法を知っているが面倒で行わない
- 期限を理解しているが着手しない
- 注意された内容を軽く考えて変えない
状態です。
この場合、同じ内容を最初から何度も教えるだけでは改善しないことがあります。
「分かっているのに実行しない」のであれば、教育より行動責任を扱う段階へ進みます。
判断基準1|その仕事を正しく教わっているか
最初に確認するのは教育履歴です。
役職者が「前に教えたはず」と思っていても、実際には、
- 一部しか説明されていない
- 別の担当者が教えたと思い込んでいた
- 口頭で一度言っただけ
- 本人が理解したか確認していない
場合があります。
教育自体が不足しているなら、「やらない」と判断するのは早すぎます。
まず「本人が教わったか」ではなく、「理解できる形で教育が完了していたか」を確認します。
判断基準2|本人が正しい方法を説明できるか
本人へ、正しい手順や判断基準を説明してもらいます。
例えば、
- 「この仕事の手順を説明してみて」
- 「どの状態になったら報告する?」
- 「何を確認したら完了?」
- 「なぜこのルールが必要?」
と聞きます。
説明できないのであれば、まだ知識・理解不足の可能性があります。
正しく説明できるのであれば、次に実行能力を確認します。
判断基準3|実際に一人でできたことがあるか
「理解している」と「実際にできる」は違います。
そのため、過去に同じ仕事を一人で正しく完了できた実績があるかを見ます。
一度も一人でできたことがないなら、経験不足の可能性があります。
反対に、何度も安定してできていたのに今回だけ行っていないなら、能力以外の原因を確認しやすくなります。
「過去に安定してできていたか」は、できない・やらないを切り分ける重要な材料です。
判断基準4|今回は何が違ったのか
過去にできていたからといって、すぐ「今回はやらなかった」と決めることもできません。
今回だけ、
- 仕事量が多かった
- 別の緊急業務が入った
- 必要な情報が届いていなかった
- 指示が変更されていた
- 複数の上司から違う指示を受けていた
可能性があります。
環境が変わってできなかったのであれば、本人の意思だけの問題ではありません。
過去にできていた場合でも、「今回はなぜできなかったか」を一度確認します。
判断基準5|本人が必要性を理解しているか
手順を知っていても、その行動がなぜ重要なのか理解していない場合があります。
例えば、報告ルールを知っていても、
「この程度なら後でいい」
と軽く考えているかもしれません。
この場合は、能力不足というより基準の重要性が十分伝わっていない状態です。
本人へ、
- なぜ必要なのか
- やらないと何に影響するのか
- どこまでが必須なのか
を再確認します。
知っていることと、その基準を守る必要性まで理解していることは別です。
判断基準6|本人へ「なぜ今回はやらなかったか」を聞く
必要な知識・能力があると確認できたら、本人へ理由を聞きます。
この時、
「やる気ないの?」
と決めつけるのではなく、
- 「正しい方法は分かっているよね。今回はなぜその方法を取らなかった?」
- 「確認が必要だと分かっていた中で、今回はどう判断した?」
- 「期限を把握していたけど、着手しなかった理由は何だった?」
と事実から聞きます。
本人の回答から、行動面なのか別要因なのかを確認します。
「やらない」に見えて実は「できない」ケース
役職者が特に注意したいのが、本人の行動をすぐ「やる気の問題」と判断することです。
例えば、
| 見た目 | 実際に考えられる原因 |
|---|---|
| 質問しない | 何を聞けばよいか分からない |
| 報告しない | 報告基準を理解していない |
| 動かない | 何を優先するか分からない |
| 何度も忘れる | 仕事量が多く確認方法がない |
| 自主的に動かない | 勝手に動くと怒られると思っている |
ことがあります。
表面だけを見ると意欲不足でも、実際には知識・判断・環境の問題である場合があります。
「できない」に見えて実は「やらない」ケース
反対に、何度教えてもできないように見えて、実際には行動を省略している場合があります。
例えば、
- 正しい手順を説明できる
- 過去には一人でできている
- 確認方法も知っている
- 必要性も理解している
- それでも毎回同じ工程だけ省略する
状態です。
ここでさらに同じ説明だけを繰り返しても、根本的な改善にはつながりません。
能力が確認できた後も実行しない場合は、本人へ求める行動と責任を明確にします。
「やらない」と判断した時の指導方法
できるのに必要な行動をしていないと判断した場合は、曖昧な注意で終わらせません。
例えば、
- 本人が基準を理解していることを確認する
- 今回はその行動をしなかった事実を確認する
- なぜ問題なのかを明確にする
- 次から求める行動を決める
- 次回その行動を確認する
流れです。
例えば、
「報告基準は理解していて、以前はできている。今回は分かっていて後回しにしているので、次からは遅れる可能性が出た段階で必ず報告してください」
と伝えます。
やらない問題では、「何を知っているか」より「求められた行動を実際に行う責任」を扱います。
「できない」と判断した時の育成方法
一方で、本当に能力や理解が不足している場合は、本人を責めても改善しません。
| 不足 | 主な育成方法 |
|---|---|
| 知識 | 基準・手順を教える |
| 理解 | 説明方法を変え、本人に説明させる |
| 経験 | 練習・実践回数を増やす |
| 判断 | ケースを使い判断基準を教える |
| 優先順位 | 何を先に処理するか一緒に整理する |
| 安定性 | 確認方法を作り、一定期間チェックする |
| 環境 | 仕事量・役割・情報共有を調整する |
できない状態では、本人ができるようになるための条件を作ることが役職者の仕事です。
「できない」から「やらない」へ変わることもある
最初は本当にできなかったスタッフでも、教育と経験によってできるようになります。
その後も必要な行動をしない場合は、問題の種類が変わります。
例えば、
最初は報告タイミングが分からなかった。
教育後は正しく報告できるようになった。
しかし、その後「面倒だから」という理由で報告を省略するようになった。
この場合、最初は教育課題でしたが、後半は行動課題になります。
部下の状態は固定ではありません。以前の原因をそのまま使い続けず、現在の状態を確認します。
一度の未実行で「やらない人」と決めつけない
役職者が避けたいのは、一回できなかっただけで、
- やる気がない
- 責任感がない
- 言ってもやらない人
と人物評価することです。
判断には、
- 教育状況
- 理解度
- 過去の実績
- 今回の環境
- 本人の説明
- 同じ行動の繰り返し
など、複数の事実を使います。
「やらない」は性格診断ではなく、必要な能力と条件があるにもかかわらず行動が実行されていないという事実判断です。
「やらない」を放置し続けない
一方で、できるのに必要な行動を何度も行わない状態を、永遠に教育不足として扱うのも問題です。
放置すると、
- ルールを守っている人へ負担が出る
- 「やらなくても問題ない」という基準になる
- 周囲のスタッフが不公平を感じる
- 役職者が毎回フォローすることになる
可能性があります。
必要な教育を行い、本人の能力も確認した後は、求める行動を明確にします。
育成とは何でも優しく教え続けることではなく、「できるようにする責任」と「できるなら実行してもらう責任」を両方持つことです。
繰り返す場合は「前回何を決めたか」を確認する
同じ未実行が続いた場合は、もう一度最初から注意するだけではなく、前回の内容を確認します。
- 前回どんな問題を確認したか
- 本人はどう理解したか
- 次から何をすると決めたか
- 今回その行動を実施したか
を見ます。
改善策自体が機能していなければ方法を変えます。
改善策を本人が実行していなければ、その未実行を指導します。
同じ問題の再発では、本人の能力だけでなく「前回決めた改善行動を実行したか」を確認します。
できない・やらない判断の7ステップ
STEP1|何が実行されていないか具体化する
人物評価ではなく行動を見る
STEP2|教育済みか確認する
正しい方法を教わっているか見る
STEP3|理解できているか確認する
本人へ手順・理由・基準を説明させる
STEP4|過去に一人でできたか確認する
実行能力があるかを見る
STEP5|今回の条件を確認する
仕事量・情報・指示など環境要因を見る
STEP6|本人へ未実行の理由を確認する
決めつけず本人の判断を聞く
STEP7|教育か行動指導かを決める
原因に合わせて対応を変える
判断チェックリスト
□ 何ができていないか具体的な行動で説明できる
□ 本当に教育済みか確認している
□ 本人が正しい手順を説明できるか確認した
□ 本人が必要性まで理解しているか見ている
□ 過去に一人で安定してできた実績があるか確認した
□ 今回だけ違う条件がなかったか確認した
□ 本人の説明を聞く前に「やる気がない」と決めつけていない
□ 「やらない」に見える能力不足を見逃していない
□ 「できない」に見える未実行を教育だけで済ませていない
□ 原因に合わせて教育・練習・環境改善・行動指導を使い分けている
□ 再発時は前回決めた改善行動を確認している
□ 人物評価ではなく事実から判断している
役職者は「できるようにする」と「やってもらう」を分けて管理する
人材育成には、大きく2つの段階があります。
一つは、本人が仕事をできる状態を作ることです。
もう一つは、できるようになった仕事を、必要な場面で実際に行ってもらうことです。
前者には教育・練習・支援が必要です。
後者には役割・基準・責任・確認が必要です。
「できない人をできるようにする」のも育成であり、「できる人が必要な行動を安定して実行する状態を作る」のも管理職の仕事です。
関連して学びたいテーマ
「できない」と「やらない」を分けられるようになったら、次は一人ひとりの教育がどこまで進んでいるかを継続的に管理する方法を整理します。
- 部下の教育進捗を管理する方法
- 新人教育計画の作り方
- 教育チェックリストを使った育成方法
- ロープレを使ったスタッフ教育
- スタッフ教育・人材育成の進め方
- 問題解決力と意思決定
まとめ
部下が必要な仕事をできていない時は、「できない」のか「できるのにやらない」のかを分けて考えることが重要です。
「できない」は、知識、理解、経験、判断基準、優先順位、環境などに不足がある状態です。
この場合は、教育・練習・支援・環境改善が必要です。
「やらない」は、正しい方法と必要性を理解し、実行能力もあるのに必要な行動を行っていない状態です。
この場合は、もう一度同じ説明をするだけではなく、本人へ求める行動と責任を明確にします。
ただし、一度の未実行や印象だけで「やる気がない」と決めつけてはいけません。
教育状況、理解度、過去の実績、今回の環境、本人の説明まで確認して判断します。
良い役職者は、「できない人を責める」ことも、「やらない人へ教え続ける」こともしません。原因を見分け、教育が必要なのか、行動責任を明確にするべきなのかを正しく判断します。