この講義で学べること
部下や新人が仕事をできない時、役職者は「もっと頑張って」「ちゃんとやって」と言いたくなることがあります。
しかし、同じ「できない」という状態でも原因は一つではありません。
- そもそも仕事を知らない
- 説明を聞いたが理解できていない
- 頭では分かるが実際にはできない
- 判断基準が分からない
- 優先順位を決められない
- 仕事量が多すぎる
- 必要な情報が渡されていない
- できるのに実行していない
など、原因によって必要な対応は変わります。
部下育成では、「できていない」という結果だけを見るのではなく、「どこで止まっているのか」を見分けることが重要です。
この講義では、部下が仕事をできない時に確認したい主な原因、見分ける質問、原因別の対応方法まで整理します。
「できない」を分解する
知っているか
↓
理解しているか
↓
実際にできるか
↓
判断できるか
↓
安定して続けられるか
↓
分かっていて実行しているか

「できない人」でまとめてはいけない
役職者から見ると、部下の仕事がうまくいかない状態はすべて「できない」に見えることがあります。
しかし、例えば同じ報告ミスでも、
- 報告が必要だと知らなかった
- どの段階で報告するか分からなかった
- 報告しようとしたが他業務で遅れた
- 報告すべきと分かっていたが後回しにした
では、原因が違います。
それなのに全員へ、
「報告をちゃんとしろ」
と同じ指導をしても改善しないことがあります。
良い役職者は、人を「できる・できない」で分類するのではなく、できない原因を分解します。
原因1|そもそも知らない
最初に確認するのは、「その仕事をきちんと教わっているか」です。
例えば、
- 新人へ説明した記録がない
- 他の先輩が教えたと思い込んでいた
- 見て覚える前提になっていた
- 一部の手順だけ教わっていなかった
場合があります。
本人が知らないのであれば、必要なのは強い注意ではありません。
まず教えます。
教えていないことを「なぜできないの?」と責めないことが基本です。
原因2|聞いたが理解できていない
説明を受けていても、内容を正しく理解していない場合があります。
例えば、
- 用語の意味が分からなかった
- 説明が速すぎた
- 一度に多く教えられた
- 本人が違う意味で受け取った
- 目的を理解していなかった
状態です。
この場合、同じ説明をもう一度そのまま繰り返すだけでは改善しないことがあります。
言葉を変える、仕事を細かく分ける、見本を見せるなど、教え方を変えます。
「説明済み」と「理解済み」は別です。
原因3|理解しているが実践できない
本人が手順を説明できても、実際の仕事ではできないことがあります。
これは知識不足ではなく、実践経験が足りない可能性があります。
例えば、
- 緊張すると手順が飛ぶ
- 忙しくなると止まる
- 複数のことが同時に起きると混乱する
- まだ作業速度が追いつかない
場合です。
この場合は、
- 繰り返し練習する
- 簡単な場面から経験させる
- 途中確認を増やす
- 先輩と一緒に実践する
方法があります。
「分かっているのにできない」人には、追加説明より実践量が必要なことがあります。
原因4|判断基準が分からない
手順が決まっている仕事はできても、状況が少し変わると止まるスタッフがいます。
この場合、判断基準が身についていない可能性があります。
例えば、
- いつ上司へ相談するか分からない
- 何を優先するか分からない
- どこまで自分で決めてよいか分からない
- 通常と異常の境目が分からない
状態です。
この場合は「自分で考えて」だけでは不足します。
何を見るか、どの条件なら相談するか、何を優先するかを教えます。
判断力を育てるには、答えだけでなく判断に使う基準を教える必要があります。
原因5|優先順位を決められない
一つの仕事ならできるのに、複数の仕事が重なると崩れるスタッフもいます。
この場合、能力そのものではなく優先順位の問題かもしれません。
例えば、
- 重要度より頼まれた順に処理している
- 急ぎと重要を区別できない
- 自分で抱え込んで相談しない
- 途中で仕事を切り替えられない
状態です。
この場合は、仕事内容だけではなく「何から処理するか」の考え方を教えます。
忙しい時だけできなくなる人は、仕事の知識ではなく優先順位の判断に課題がある可能性があります。
原因6|仕事量や環境に問題がある
本人だけを見ていると見落としやすいのが、環境側の問題です。
例えば、
- 一人に仕事が集中している
- 必要な情報が届いていない
- 役割分担が曖昧
- 上司から違う指示が複数出ている
- 時間的に終わらない量を任せている
- 必要な道具や準備がない
場合です。
これを本人の能力不足だけで処理すると、別の人が担当しても同じ問題が起きます。
複数人が同じ場所で失敗するなら、個人より先に環境・役割・仕組みを確認します。
原因7|やり方は分かるが安定しない
できる日とできない日の差が大きい場合があります。
この場合、
- 習慣化できていない
- 確認工程を飛ばしている
- 忙しい時だけ基準が崩れる
- 自己流へ戻ってしまう
可能性があります。
対応としては、
- チェック項目を固定する
- 一定期間確認を続ける
- 何回安定したら任せるか基準を決める
方法があります。
一度できたことと、安定して任せられることは別です。
原因8|できるのに実行していない
教育も受け、理解もあり、過去にはできている。それでも必要な行動をしない場合があります。
ここでは初めて、知識や能力以外の行動面を疑います。
例えば、
- 面倒だから省略している
- 重要だと思っていない
- 注意されても変える意思が弱い
- 意図的にルールを守っていない
場合です。
この状態は「できない」ではなく、「やらない」に近くなります。
ただし、役職者が「やる気がない」と決めるのは、知識・理解・経験・環境などを確認した後です。
原因を見分けるための基本質問
① この仕事を教わったことはある?
② 自分の言葉で手順を説明できる?
③ 一人でやると、どこで止まる?
④ その時、何を見て判断した?
⑤ 他の仕事と重なった時はどうしている?
⑥ 何か足りない情報や条件はなかった?
⑦ 正しい方法を分かっていたのに、今回はなぜ行わなかった?
質問の目的は問い詰めることではありません。
どの段階で仕事が止まっているのかを確認するために使います。
実際にやらせると原因が分かりやすい
本人の話だけでは原因が分からない場合があります。
その場合、実際に仕事をやらせて観察します。
見るポイントは、
- 最初から止まるのか
- 途中まではできるのか
- 状況が変わった時だけ止まるのか
- 時間が足りなくなるのか
- 確認だけ抜けるのか
です。
例えば手順1〜4のうち3で毎回止まるなら、3の理解や経験を重点的に確認できます。
「できない原因」は会話だけでなく、実際の行動を見ることで特定しやすくなります。
「前はできた」を確認する
原因分析では、過去に同じ仕事をできたことがあるかも重要です。
一度もできたことがないなら、教育や経験不足を疑います。
以前は一人で安定してできていたのに最近できないなら、
- 仕事量が変わった
- 役割が増えた
- 新しい環境になった
- 確認を省略するようになった
- 優先順位が崩れている
など、別の変化がないか確認します。
過去にできていたかどうかで、能力不足なのか別要因なのかを切り分けやすくなります。
一人だけできないのか、全員できないのかを見る
これも重要な判断材料です。
同じ教育を受けた10人のうち1人だけできないのであれば、本人個別の理解・経験などを確認します。
反対に、多くのスタッフが同じ部分で失敗するなら、
- 教え方
- ルール
- 手順
- 完成基準
- 役割分担
側に問題がある可能性が高くなります。
個人の問題か仕組みの問題かを判断する時、「他の人でも同じことが起きているか」は重要な情報です。
できない原因と対応を整理する
| 原因 | 主な対応 |
|---|---|
| 知らない | 教える |
| 理解不足 | 説明を変える・理解確認する |
| 経験不足 | 実践・練習を増やす |
| 判断基準不足 | 判断材料・相談基準を教える |
| 優先順位が弱い | 優先順位の決め方を教える |
| 仕事量・環境 | 役割・配置・情報・負荷を見直す |
| 安定しない | 確認方法・反復・習慣化を行う |
| 分かっているが実行しない | 行動責任を明確にする |
原因と対応が合って初めて、育成は前へ進みます。
原因を間違えると指導が逆効果になる
例えば、経験不足の新人へ「やる気を出せ」と言っても、経験は増えません。
逆に、分かっていて何度も意図的に省略している人へ、毎回最初から丁寧に教え直すだけでも改善しません。
このように、
- 教育が必要なのに注意だけする
- 経験が必要なのに説明だけする
- 環境の問題なのに本人だけ責める
- 行動の問題なのに何度も教育だけする
と、対応がずれることがあります。
部下の成長が止まっている時は、「本人に何を言うか」より先に「原因の見立てが合っているか」を確認します。
最初から性格の問題にしない
役職者が特に注意したいのが、原因を人物評価へ変えてしまうことです。
- 気が利かない
- 頭が悪い
- やる気がない
- 責任感がない
- 向いていない
こうした言葉だけでは、何を改善すればよいか分かりません。
例えば「気が利かない」なら、
- 何に気づけていないのか
- どこを見る基準を知らないのか
- 見えていても優先できないのか
まで分解します。
育成できる役職者は、性格の言葉を行動の言葉へ変えます。
原因は一つとは限らない
実際の仕事では、複数の原因が重なっていることもあります。
例えば、新人が営業中に報告できない原因が、
- 報告基準を十分理解していない
- 忙しい時の優先順位が弱い
- 役職者へ声をかけにくい
という3つの組み合わせかもしれません。
その場合、一つだけ直しても完全には改善しません。
「原因はこれだ」と早く決めすぎず、必要なら複数の要因を整理します。
一度に全部直そうとしない
原因を複数発見しても、すべて同時に改善させる必要はありません。
例えば、
- 安全への影響が大きい
- 他の能力の土台になる
- 頻繁に発生している
ものから優先します。
まず一つ改善し、その後次の課題へ進みます。
原因分析の目的は問題をたくさん見つけることではなく、次に何を直すか決めることです。
原因を見分ける6ステップ
STEP1|できていない行動を具体化する
「仕事ができない」ではなく何ができないかを見る
STEP2|教わっているか確認する
そもそも必要な教育を受けているかを見る
STEP3|理解を確認する
本人に説明させ、意味まで分かっているか見る
STEP4|実際の行動を見る
どの段階で止まるか観察する
STEP5|環境・仕事量も確認する
本人以外の原因がないかを見る
STEP6|原因に合った対応を決める
教育・練習・基準・環境改善・行動指導を使い分ける
原因分析チェックリスト
□ 「できない人」とまとめて判断していない
□ 具体的に何ができていないか言える
□ そもそも教えた内容か確認している
□ 本人が内容を理解しているか確認している
□ 実際に仕事をさせて、どこで止まるか見ている
□ 判断基準があるか確認している
□ 優先順位の問題がないか見ている
□ 仕事量・配置・情報不足も確認している
□ 過去に同じ仕事を安定してできていたか確認している
□ 他のスタッフでも同じ問題が起きていないか見ている
□ 最初から「やる気がない」と決めつけていない
□ 原因に合った育成・指導方法を選んでいる
役職者は「できない理由」を説明できるようになる
人材育成が上手い役職者は、
「このスタッフは仕事ができない」
で止まりません。
例えば、
「基本手順は理解している。ただ、複数業務が重なった時の優先順位判断がまだ弱い」
と説明できます。
ここまで分かれば、次に何を育てればよいかも明確になります。
「何ができないか」から「なぜできないか」まで説明できるようになることが、役職者の育成力です。
関連して学びたいテーマ
部下ができない原因を分けられるようになったら、次は「できない」のか、それとも「できるのにやらない」のかをより明確に見分けます。
- 「できない」と「やらない」の違い
- 部下の教育進捗を管理する方法
- 新人教育計画の作り方
- 教育チェックリストを使った育成方法
- ロープレを使ったスタッフ教育
- スタッフ教育・人材育成の進め方
- 問題解決力と意思決定
まとめ
部下が仕事をできない時、役職者は「本人の能力が低い」とすぐ判断しないことが重要です。
まず、何ができていないのかを具体化します。
その上で、そもそも教わっているか、理解しているか、実践経験があるか、判断基準を持っているか、優先順位を決められるか、仕事量や環境に問題がないかまで確認します。
また、過去にできていたか、他のスタッフでも同じ問題が起きているかを見ることで、個人の問題と仕組みの問題を分けやすくなります。
原因が知識不足なら教え、理解不足なら説明を変え、経験不足なら実践を増やし、環境の問題なら仕組みを直します。
役職者の育成力は、「できない部下へ強く言えるか」ではありません。どこで止まっているかを正しく見つけ、その原因に合った方法で成長させられるかで決まります。